二つと十億のアラベスク Audible 版 感想 (ネタバレあり)
これは果たして望むべき結末だったのだろうか…?
中盤から人間と人工知能の同性愛というSF百合っぽい展開に少々驚いたが、バックグラウンドとなる世界は、そもそもこれは人間の望む未来なのか…?と不安になる描写が多々あり、なんとも言えない気分になった 現在からして、人工知能とまでは言わずとも、ある程度のアルゴリズムに従って意思決定をすることは現代を生きる者としては当然日常的に行なっていることではあるのだが、果たしてその俎上に挙げられた選択肢が恣意的に手が加わっているとしたら…?恐ろしくなる
上級インターフェースであるタカセが人間が好むような仕草をすることをユイは自覚しつつも、それに惹かれてしまっているあたりなんていうか、ECでレコメンドされるがままに商品を買ってしまうとか、動画配信サービスでレコメンドされるがままに作品をみてしまうとか、そういうことってもう既にある感じがする 2つ曲のバリエーションがあるならそこそこ筋立ててどっちはどうっていうジャッジはできるけど、10億種類の曲があったら果たして人間は有限時間中に選択できるのだろうか?というのが核心的な問いで、それについて人工知能なりアルゴリズムなりが枝刈りをして提示してきた選択肢に意図は本当にないのだろうか? ちょうど最近 txt2img や img2img をやるいろいろが流行っているけど、そのモデルや元データの扱いについては賛否両論といった感じがする そしてモデルに対して筋立てて説明できる人間がいるんだろうか?自分はそんなに詳しいわけではないが、あの界隈は「なんかわからんけど動く」を地でやっていると認識している
10億(もしくはもっと)の画像のバリエーションの中から最適っぽいのをアルゴリズムに引いてきてもらっている状態なのではないだろうか
現状まだそこまで介入されている感は薄いけど(実は認識している以上に食い込まれているんだろうか?)、例えば GitHub Copilot がもっと普及してきて、TypeScript がもはやインテリセンスがないと書けないように、Copilot のアシストなしでは複雑なアルゴリズムを表現できなくなってしまったりするんだろうか? そうなった時に、自分が Copilot を経由して書くコードにどれほどの価値があるんだろう?
作中でもベーシックインカムなどが実現した世界は、実はひどく退屈であるという様子が伝わってくるが、そんな社会が実現した時に "人間にしかできない" 創作的な作業に没頭できたりするんだろうか? そして現実では "人間にしかできない" とおもわれていそうな領域から食われていっている感じがする
そうなると完全にディストピアっぽいけど、機械に置き換えるにはコストがかかりすぎる領域(人間にやらせた方が安上がり)にだけ人間が残されて、コスパがいい領域は機械にとって代わられるということに....
途中、ミナトが実は人間に紛れた人工知能なのではないかとヒヤっとしたが、さすがにそれは違ったっぽい